坪庭を囲む静寂に包まれた漆の家
- POINT
- 京都町屋の坪庭をヒントにした、中庭を囲む家
- 日本古来の自然塗装である「漆」で包まれた家
- 障子の柔らかい光で囲まれたリビング・ダイニング・キッチン
横浜の住宅街の一画に敷地はあります。日々多くの人を相手に仕事をされているクライアントは、廻りを気にせず、京都の町屋のように内に閉じて静かに暮らせる和風の住まいが要望でした。
今回の計画では、京都町屋の坪庭をヒントに、中庭を中心にして、玄関アプローチや、和室、リビング、ダイニング、キツチンを配置し、中庭の四季のうつろいを、家のどこにいても身近に感じられるようにしました。
門を開けると、中庭が目の前に飛び込んできます。家の中に入る前の内部と外部が交差した中庭を中心としたこの空間は、気分を換える大切な場所。
玄関に入ると、漆塗りの床が玄関からリビング・ダイニングへと続いていきます。漆は、日本古来の100%天然素材の塗料で保湿性や耐水性、抗菌性に優れ、材を長持ちさせ、さらに優雅さをもたらします。
床や家具、框、カウンターさらには洗面器に漆を塗り込み、家全体が漆に包まれた落着いた空間になりました。
玄関に隣接した多機能に使える和室、オープンキッチンを真ん中に据え、中庭を楽しめるリビング・ダイニング、趣味のチェロ演奏や物書きができる書斎、横浜のランドマークの花火を鑑賞できる屋上テラスと、家の中で心地よい居場所が沢山できました。
左官による塗り壁と、瓦庇と瓦屋根が載る外観 手前が平屋で、奥が2階建て。さらに屋根上に展望テラスを設けました。
正面の門構え。 焼き杉の壁と一文字瓦の載る庇、木製引き戸のある門構えです。
引き戸を開けると、正面に中庭が現れます。
モミジの株立ちと苔、そして蹲(ツクバイ)のある中庭。
四季や風の流れを感じさせてくれる樹木、蹲に落ちる水音、夜になると灯る灯篭の光、外から帰ってきて、この坪庭に身を置くことで、気持ちが自然に切り替わります。
庇を大きくだすことで、中庭に奥行が生まれ、拡がりを感じる事ができます。
中庭を眺めながら右に曲がると、玄関です。 正面の瓦庇の下は、リビンクのL字型の窓。(障子を閉めた状態)
軒は天井高さを低く抑え、明るい坪庭へと視線が向くようにしました。 天井素材は、焼き杉。
アプローチの右側手前には和室があります。
アプローチや手前の和室部分を平屋とすることで、中庭にはいつも明るい陽射しが注ぎ込みます。
夏には簾を降ろします。 簾があることで、玄関門から入ってきた時に視線が庭へと注がれ、リビングからの視線を遮ります。
手前の照明は、クライアントが京都で買い求めた骨董品
玄関扉からの見返り
正面が玄関の引き戸。 右の壁につくサッシは、和室の開口部。 和室の前には低いベンチをしつらえました。
帰宅して、一時荷物を置くもよし、ベンチに座って中庭を眺めるのも良し。
玄関引き戸を開けたところ。
玄関の中に入りますと、丸窓が迎えてくれます。 右の市松模様は、押入れ。その右手前は和室です。
正面のカウンター、床材、框は、全て漆塗。 漆は、京都の木漆工芸作家の建田(タケダ)良策氏の協力をえました。
市松模様のふすま紙は、木曽アルテックの和紙
和室の障子は、普段はオープン。 使う頻度が少ない和室を玄関脇に設けたことで、玄関を広く、開放的に使えます。
和室を人が使うときは、障子を閉めます。 障子は桟が表にでてこない「たいこ貼り」。 照明に灯を入れると行燈のような雰囲気になります。
和室の奥には小さな床と、掘りこたつ式の書斎を設けました。
唐紙を貼った和室ペンダント照明は、京都唐長の作
書斎横の障子を開けると、その先が中庭です。 読書や書き物をしながら、中庭を眺められます。
障子を太鼓貼りにすることで、部屋全体が柔らかい雰囲気になります。 影とひかりが織りなす落着いた和室です。
玄関ホールです。 玄関扉のすぐ右の扉は、ウォークインのシューズクローク。 家の人は、こちらから出入りすることで、玄関はいつも綺麗に保てます。
右のアーチ開口は、リビングに向かう廊下
玄関から、廊下へは、気持ちが変わるように背の低いアーチ開口としました。
廊下から玄関方向を見返したもの。 右の引き戸は、京都の骨董品の扉で、シューズクロークに入る扉。
廊下左側の扉は、全て天井までの収納となります。
玄関から廊下を先に進み、左に折れるとリビングになります。 障子は、中庭に面しています。
黒い構造の柱がしっかり支える、リビング空間 床のフローリングは、全て漆を塗装したものです。 何度か上塗りを重ねた深みがある床です。 時と共に色が変わり、よりなじんでいきます。 自然塗装の魅了ですね。
リビングの造り付収納家具。 テレビ、趣味のステレオオーディオセット、音楽CD等を全て収納した障子開口を採り込んだ壁面一杯の家具です。
坪庭に面する開口は、L字に折ることで、リビングに角を作らず拡がりを持たせることができました。
手前の大きなリビングのテーブルと、ソファー横のサイドテーブルは、京都の木漆工芸作家の建田(タケダ)良策氏のデザインで、漆塗。
キッチンはアイランド型のオープンキッチンで、リビングとダイニングの中心に配置。 玄関への移動や、家事にも最も動きやすい場所に設けました。
キッチン幕板の色は、漆のフローリングに合うような赤褐色にしました。
階段上部のトップライトから光を採り込むダイニング 階段部分には段々の造り付収納を設けました。 縦のブラインドの外は物干しスペース。 ダイニング奥のカウンターは、奥様のパソコン作業スペース。
ダイニングからキッチンとその奥の玄関に通じる廊下を見たところです。 ダイニングテーブルの上のペンダント照明も、京都唐長の唐紙で作った照明器具。
オープンキッチンからリビングを見たところ。
調理をしながら会話も楽しめますし、テレビ鑑賞や音楽も聞けます。 障子を開ければ、坪庭の緑も見える、まさに家の中心。
リビングソファーから坪庭を見たところ。 雪見障子をいろいろ動かして、坪庭の風景を楽しめます。
中庭の向こうは玄関からのアプローチとその奥に和室があります。 玄関アプローチと和室のところは、平屋なので、瓦の屋根がリビングから見え、奥行がありかつ開放的な風景が楽しめます。
リビングと中庭のつながり。
L字の開口から中庭を見ます。
2階へ上がるダイニング脇の階段です。 階段脇は、段状の造り付家具。 一部ガラスの飾り棚にしました。
階段の踊り場から折り返して2階方向を見たところ。
2階から階段を振り返ったところです。 コーナーには障子を入れた明かり採りのサッシ。 天井にはトップライトを設け、いつも階段吹抜けが明るいようにしました。 トップライトを開けると、下から上へ、風が抜けていきます。
2階廊下から屋根上展望テラスに上がる階段。 右は主寝室。正面のガラスの入った扉はご主人の書斎。 2階は寝室と書斎からなります。
展望テラス。ここから横浜の花火を眺めることができます。 またクライアントの趣味の星空観察もできます。
物書きと読書、チェロの演奏が趣味のご主人の書斎
1階の和風トイレです。
天井は、茶室で使われる萩の天井。 洗面器は、木曽アルテックで製作してもらった漆の洗面器。
障子の照明をいれることで、和を感じる落着いたスペースとなりました。
2階の洗面スペース。奥がトイレです。 洗面所という部屋ではなく、廊下の隅に設けたもので、壁にガラスモザイクタイルを貼り、洗面コーナーとしました。