職人技が光る石と木と珪藻土の家
- POINT
- 鉄平石の壁と木ルーバーで囲まれた廻廊と中庭を持つ家
- 鉄平石と、自然木、珪藻土という自然素材で包まれた、静かで落ち着く都市型住宅
- 本格的音楽スタジオと大人のバーコーナーを地下に持つ、オーナーの趣味を活かせる家
フランクロイドライトが設計した最晩年の住宅ケンタックノブ
アメリカでの長い生活の中で何度もケンタックノブを訪れた建築主の要望は、木と石と土で囲まれ、緑が見える家族4人の家。そしてその中で仲間と趣味のジャズ演奏を楽しみたいということでした。
敷地は文京区本郷の2面道路の角地。都心の限られた敷地の中で街の喧騒から逃れ、静かで落ち着いた家を考えた結果、中庭を囲んだ都市型住宅という形になりました。
唯一緑の見える中庭には廻廊を設け、眺めるだけではなく移動しながら光や風を感じる場としました。
外から玄関に至るアプローチは、内と外を緩やかにつなぐ場として最も力を注ぐ空間ですが、先の見えない曲面壁を進み、中庭の空気を感じることで、おのずと気持ちが切り替わります。
2階もリビングから和室を通り、ユーティリティーに至る廻廊を設け、いつでもプライベートな庭に接することができるようにしました。
内部は、4層吹抜けの階段を中心に、スペースがつながり、家族の気配を感じながら心地よく暮らせる家となりました。
建築家フランク・ロイド・ライトの最晩年の住宅ケンタック・ノブ(ハーガン邸)
街にやさしい自然素材の外観
建物は鉄筋コンクリート造で、断熱性能の高い、外断熱工法としました。
敷地は、2つの道路に面する角地。その角地を柔らかく囲むように鉄平石の石積みと左官の外壁が廻っていきます。
自然素材ならではの力強さと、経年変化による趣が楽しめます。
中庭や2階居室への風の抜けを考慮し、プライバシーも確保するため、L字型の木縦ルーバーを曲面壁に沿うように配置。
建物は3階建ですが、3階部分がセットバックしているので、圧迫感はありません。
外断熱工法による省エネ住宅
断熱パネルの厚みは、60mm。その上にメッシュを施し、左官下地の上に仕上げをしています。
石の部分は、一部断熱材をコンクリートに打ち込んでいます。
鉄平石の外壁に空けたアーチ開口部は、外と内をつなぐ装置であり、建物の顔となります。
アーチの中は、スチール亜鉛メッキリン酸処理の横ルーバー。
中庭に風を通す役目があります。
木と石で囲まれた玄関ポーチ
鉄平石の壁に沿って歩くと、木天井の玄関ポーチになります。
自然石の壁と木の扉。天井もレッドシダーの木天井。
玄関ポーチの庇の下は駐車スペースと駐輪スペースです。
門から玄関までのアプローチ
門から玄関までの石と木で囲まれたアプローチです。
ここは、外の慌ただしい環境から、一旦洞窟のような通路を通ることで、気持ちが切り替わる大切な場所です。
アールの壁になっているので先が見えず、それが奥行感を生み出します。
アプローチを進むと、右手に外の道路に面したアーチ開口が見えてきます。
このアーチの開口から中庭に対して上昇気流が起こり、風が中庭へと抜けていきます。
左手には中庭が見えてきます。
四季のうつろいを感じられる静かな中庭
中庭にはモミジをはじめとした季節のうつろいを感じる植栽を施しました。
右の大きな木製サッシは、1階の主寝室の窓
どの部屋からも、中庭の緑が見えるように計画しました。
アプローチを進むと、右手に外の道路に面したアーチ開口が見えてきます。
ふと、ここで足を止め、ベンチに腰掛け庭を見る。
自然の風を感じ、木々をながめる。そんな一瞬の心のやすらぎをもたらす中庭です。
中庭とひと続きの玄関ホール
半外部である中庭との連続性をもたせるために、アプローチの天井の木と、床の石、壁の鉄平石は玄関ホールまで伸びていきます。
玄関ホールには、中庭が見える地窓を設け、ここからも中庭の緑を楽しむことができます。
どこにいても何気なく自然を感じられるようにしています。
玄関扉は、断熱性能の高い木製扉。
くつの脱ぎ履きに便利なベンチ
玄関収納を挟んで、右が地下に下りる階段。
2階へ上がる階段吹抜けからは、屋根に設けたトップライトからの明るい光が壁に沿って差し込みます。
天井を低く抑えた玄関ホールと廊下
玄関ホールとそれに続く廊下の天井は低く抑え、安心感をもたらします。
天井高さを低くすることで、吹抜け階段と2階リビングの開放感をより強く感じることができます。
右の木パネルは、収納扉とトイレの扉が同一面で納められ木の壁のように見せています。
造り付家具に納めた組込み式の洗面器具
地下のスタジオでは演奏やゼミが行われますが、その際の飲料水や食器を洗うための水栓器具を1階の玄関収納に組込みました。
上のカウンターを持ち上げます
次に手前の幕板を下げることで、洗面のカウンターになります。
中庭に面した主寝室
主寝室の大開口からは中庭、玄関アプローチ、その先の壁とアーチの開口が見え、奥行と拡がりが感じられます。
庭には小さいながらも縁側を設け、庭いじりの好きなオーナーがガーデニングを気軽に楽しめるようにしました。
曲面の壁で、柔らかさを感じるトイレ
玄関ホールに面して設けたトイレ
奥の壁は曲面とし、トイレ内部に優しさをもたらすと共に、壁の向こうの主寝室に柔らかさをもたらしています。
壁面は光を美しく反射するガラスモザイク。
大きな収納がある洗面所・バスルーム
バスルームの手前の洗面スペースには、下着やパジャマ等の収納を壁面いっぱいに設けており、着替えもスムーズに行なうことができます。
トップライトからの光が地下まで届く明るい階段
地下から3階までを通す4層の吹抜け空間
屋根に空けた3か所のトップライトの光が、白い珪藻土の壁に沿いながら地下まで伸びていきます。
地下への階段と2階に上がる階段
1階から2階に上がる階段
上部吹抜けトップライトからの光が珪藻土の壁を照らします。
2階の床から階段吹抜けを見たところです。
夏には下の冷気が上昇気流となり上階にのぼり、トップライトの開口部から抜けていきます。
左官による珪藻土の仕上げは、ジョイントのない一発仕上
職人さん3人による力作です。
書斎から見下ろした
吹抜け階段
3階の書斎から見た階段吹抜け
天井には3つのトップライトが並びます。
職人技のスチール階段手摺
地下から3階までの階段に取り付けた手摺は、鉄の作家
アトリエBOCOの小林秀幹氏の作品
中庭の緑や風が感じられるリビング・ダイニング
大きな木製サッシからは、中庭のモミジ、さらにその奥の廻廊
テラス、そしてテラスを囲う壁と木ルーバーが連続して見えます。
リビングから見た時、単に中庭の向こうに壁があるのではなく、もうひとつ廻廊が加わることで、奥行が生まれ、空間の深みを増すことができました。
密集した住宅地ですが、近隣の建物は見えず、カーテンもブラインドも要らないプライベートな空間です。
このサッシは1つ1つ全てが開き、外壁の木ルーバーからの風を中庭を介してリビング・ダイニングに通します。
中庭を中心に和室とも繋がる、視線が抜けるリビング
引き戸を開けると和室に繋がり、奥には書院が見えます。
ソファー後ろの鉄平石の壁の向こう側は、キッチンからつながるユーティリティースペース。
中庭を中心にL字に囲むようなプランです。
トップライトからの光が降り注ぐ珪藻土の壁
トップライトからの光は、時間と共に刻々と変化し、珪藻土の壁に芸術的な光の絵を描きます。
大きな吹抜けが無くても、階段を空間に取込むことで拡がりを確保することができます。
外との連続性を意識した鉄平石コバ積みの壁
外部と内部を視覚的に繋げる。それが設計主旨の一つです。
中庭の壁の鉄平石が内部へと貫通してダイニングまで伸びていきます。
壁の鉄平石は、自然石のコバ積み仕上げで、凹凸感を出しながら積んだ職人技です。
心地よいヒューマンスケールを出すため、鉄平石の大きさを吟味し、また外へと抜けていく方向性を出す為、水平ラインが解るように積んでいきました。
大きさ、形状がバラバラな自然石を積んだ間にまっすぐなスレート石(既成の大きさに割った汎用性の高い鉄平石)を入れて、水平ラインが出るようにようにしました。
鉄平石は、諏訪で創業100年の藤森鉄平石
吹抜け階段からの光を受ける、明るいリビング・ダイニング
低い木天井、丸い窓、階段箪笥型収納で囲まれた心地良いダイニング
ダイニングの部分はリビングと座った感じが変わるように、木(レッドシダー)の天井としました。
天井高さを低く抑え、ダイニングテーブルに座った時により親密に話ができるようにと考えました。
右の3階に上がる階段に沿った収納は、ガラスケース付きの階段箪笥のような形状。階段下も収納です。
3階への階段の踊り場には開口部を設け、朝食時にはその開口部から朝の光が壁に沿ってダイニングテーブルに届きます。
鉄平石の壁と、ステンドグラスの入った窓、階段型収納に囲まれたダイニングは、とても落ち着くアットホームなスケールになりました。
隣地との視線を考慮したステンドグラスのあるダイニング
ステンドグラスは、京都のガラス作家徳力竜起氏の作品で、都市と森を抽象的に表現したもの。
ダイニングテーブルを照らすガラスのシーリングライトも1つ1つデザインが異なる吹きガラスを利用した徳力作の照明
家族の会話を楽しみながら料理ができる半オープンのキッチン
鉄平石の壁の後ろは機能性を一番に考えたキッチンスペース。
流しは、手元を隠すカウンターがあるオープンキッチン。
キッチンの天板やコンロ廻りは、ステンレス仕上げ。
キッチンのパネルはブビンガ。ブビンガはアフリカ産マメ科の大木で流れるような綺麗な木目が特徴です。和太鼓の枠として使われてきましたが、今では貴重な木材です。
キッチン奥の窓からは、お隣のハナミズキが借景で見れます。
キッチン・ユーティリティー・物干しデッキと直線でつながる主婦動線を考慮したプラン
洗濯機や食品庫、アイロン台が納まるユーティリティーは、キッチンの隣に配置し、引き戸で目隠しできます。
キッチンの脇にはパソコンができる主婦スペース
キッチンとユーティリティーの引き戸を開けたところ。
キッチンとユーティリティー、物干しスペースと繋がる主婦に優しい動線です。
キッチンの並びには主婦スペースを設置。
デッキバルコニーに繋がるユーティリティー
洗濯機の置かれたユーティリティーからは、すぐにデッキバルコニーの物干しスペースに出ることができます。
ユーティリティーには折り畳み式のアイロン台も収納されていて、外を見ながらアイロンがかけられます。
物干し、洗濯物は石の壁に隠れるのでリビングからは見えません。
ユーティリティーは収納が充実しており、乾物や食品のストックヤードとしても使える便利な一部屋です。
掘りごたつや、書院を備えた客間にもなる和室
和室は中庭が眺められる位置に配置し、掘りごたつに座って中庭のモミジを楽しむことができます。また中庭を廻れる廻廊も設けたので、気分転換に和室を出て外の空気を吸うこともできます。
掘りこたつの他に掘りこたつ式カウンターのある書院も設けたので、冬の家族での団らんや一人物書きができる部屋として、有効に使うことができます。
和室で使った材料は、竿縁天井は杉、建具や造作は赤松壁は聚楽壁で、ふすまには、京都唐長の唐紙を用いました。
小さな床は床柱は杉、床板は拭きうるしとなっています。
リビングと和室を仕切る戸襖にも唐長の唐紙を使用
踏み込みの天井部分にも違う柄の唐紙を貼りました。
わずかな光で、美しい文様が浮び上ります。
リビングとの境は、天井を低く抑え、領域の違いが認識できるようにしました。
床は赤松の拭きうるし。
遊び心のある2階トイレ
トイレは一人になって気持ちを切り替える場としても、とても大切な空間です。
このトイレは和モダンの落着いたインテリアにしました。
天井と奥の壁には唐紙を使用。天井唐紙の模様は竜の絵柄が入った落着いた色彩。
床は、貴重な樟(クス)の1枚板。壁は珪藻土です。
洗面陶器は、信楽焼きのボールを用いました。
貴重な樟の板は、和室造作を得意とする工務店が、昔からストックしている材で、これからの世代に有効に生かせるように提供してくれたものです。
扉を開けると、樟の木の香りが心を和ませてくれます。
中庭を中心にぐるりと回遊できる2階デッキテラス
この家の中心である中庭。1階は、アプローチから眺める庭として、そしてマスターベッドルームから出ることで、土と楽しむ庭としての役目があります。
2階はその中庭をぐるりと廻れるプランにしました。
和室の扉を開けて、中庭を見ながら廻ると、ユーティリティーにつながります。
広めの廻廊デッキは、ここに植木鉢を置くことで、ガーデニングを楽しむこともできます。
縦の木ルーバーは、どの方向からも見えないようにL字型としました。
ユーティリティーの扉。石の壁には物干しバーを設置半分庇がかかるので、雨の日も便利です。
子供達が共同で使う廊下の本棚
3階に上がってきますと正面に本棚があります。
この本棚は階段吹抜けを囲うように配置し、人の背の高さにすることで、トップライトからの光が間接的に廊下に入るようにしました。
曲面にすることで、階段からあがってきた人の視線が右奥のバルコニーへと注がれるので、拡がりを感じます。
吹抜けの明るい壁を見ながら一人こもれる書斎
本棚の一番奥にある書斎。本棚に収納されている引き戸を閉じることで、吹抜けの光を感じながら1人になれる落着いたスペースが生まれます。
廊下と子供部屋を仕切る3枚の引き戸
男兄弟なので2つの部屋は引き戸で分けられますし、廊下ともそれぞれ引き戸で区切れます。真ん中の丸柱を中心に3枚引き戸を開けると、廊下を含めた広いフリースペースになります。
全ての引き戸を開けた状態
子供達が走り回れます
2つの部屋の間の扉を閉めた状態
和室と洋室の2つの部屋に区切れます。
3枚の引き戸を閉めた状態
扉の上部はガラスパーテションにしました。
階段トップライトからの光が子供部屋に入ります。
階段下を利用した地下の大人のバーコーナー
地下のスタジオに至る階段。玄関ホールからすぐに階段を下りてくることができるので、家族のいるプライベートな空間を通ることなく、ジャズ仲間やゲストはここで寛ぎ、楽しむことができます。
階段の下は、階段形状に合わせて作ったゲスト用のシューズクローク。
奥に見えるのは、階段下の窪みを利用した大人のバーコーナー。
正面防音扉の向こうがスタジオ。手前がバーコーナーです。
バーコーナーの天井は曲面として、洞窟の中にいるような落着くスペースとしました。
ドラムやギターの演奏もおもいっきりできる地下スタジオ
オーナーの趣味は仲間達とのジャスバンド。毎年コンサートを開くセミプロレベルです。その練習の為のスタジオは、約20畳の大きさです。遮音・防音をすることで音響の良い本格的な音楽スタジオとしました。