現代の校倉造 国立劇場(1) 竹中工務店岩本博之の設計

国立劇場を見に行きました。 国立劇場 なんと、この秀作が解体されて新しい建物になるというのですから、驚きです。 国立の建物としてコンペにより選ばれ、使い出してからの評価も高くBCS賞ももらっている建物を老朽化を理由に解体。 寂しいというか、今の技術をもってすれば、耐震はじめ改修工事も可能と考えられます。日本の建築に対する文化レベルを疑う行為だと思いますが。 さて、外観 見慣れた外観というか、日本人にもよく知られた奈良の正倉院からイメージされた校倉造。 横長を強調した大きな面の外壁と大きくはね出した庇、そして1階の低く抑えたピロティーに並ぶ丸い列柱。 見事なプロポーション。 国立劇場 コンペ当時は、現代建築全盛期で、鉄・ガラス・コンクリート・大きな開口等をもつ建物が主流といて用いられた時代。 その新しい現代建築に疑問をもつ設計者岩本さんが、日本人の昔からの知恵と工夫で造った古典の様式建築である正倉院の校倉造にヒントを得て、 木をPC版に置き換え、水平ラインを強調しながら、日本的なモダンデザインとして設計したものです。 岩本さんは、「古いものから新しい要素として現代にアプライできるものを取り出そうということです。 校倉という様式にはモダンがあると思うのです。だからそのまま現代建築に再現してもモダンが表現できると思いました」と述べています。 又「校倉の表現でつくっても、けっして古いという感じをもたなずにすむという私の感覚です。私は日本の古い建築のなかにはモダンの要素がいっぱいあると思うのです 形をそのまま踏襲するということについて、非常に軽蔑するようなことをよくいいますけれども、私は民族の心がそこにひそんでいる形というものを否定すべきでないと思うのです。 だから様式には民族の総和の力あるいは心、また知恵というものがあって、非常に強いものだと思うのですよ」とも言っています。 国立劇場 コンペ当時は、真っ白の外観で、アプローチには白い石が敷き詰められていましたが、実施設計にはいると、岩本さん自ら 色を木が経年変化した褐色に変更することを提案。粘り強く説得して今のような色になったそうです。 あくまでも控え目な外観で、色も一色。 しかしながら、校木の形を考え、積み方や、コーナー部分のディテールデザインを工夫することで、見事な陰影を生み出し、落ち着いた、安定感のある建物になっています。 建物のコーナーに並々ならぬ、設計者のこだわりが見られます。 国立劇場 岩本さんは、何度も正倉院に通い、このディテールにたどり着いたそうです。 大きくはね出した垂木や、屋根、コーナーの隅垂木など、見事。 コーナーの校木の下部の納まり 国立劇場 側面立面 横長のPCが美しい 国立劇場 大きくはね出した庇が良いですね。プロポーションも抜群   国立劇場 開口部や、設備の換気口なども上手く隠しながら気品に満ちた外観を作り出しています。 国立劇場 側面ディテール 国立劇場 正面の玄関部分は、陰影をつけて内部廊下としています。しかも天井は低い 国立劇場 正面に吊られた提灯も建物が日本の文化的演舞場であることをほのめかしてくれます。 国立劇場 外壁はPCコンクリート(工場で造られたコンクリート版)で、色を古い木材に近い茶褐色にするため、竹中技術研究所で研究を行いました。 硫酸第1鉄を主成分とする溶液をコンクリート表面のアルカリ分解作用で、安定した金属酸化を沈着させた「ケミカル・ステイニング」工法を採用し、 PCにサンドブラスト仕上げを行った上で塗装されています。 皇居の緑や周辺に対しても主張しない落ち着いた日本的な外観。 もう、このような建物はなかなかできないのです。