ルイス・バラガン サン・クリストバル(1)
建築家ルイス・バラガンが建築の究極の目的とした美と平和。それが見事に表現されたのがこのクァドア・サン・クリストバルです。メキシコの冨と人口を形に表すとピラミッドとなり、貧富の差は大きく、一部の富裕層の人達のスケールはこれまた大きいもので、この建物はその富裕層の人の家でもあります。いくつかの豪邸が連なる区域の入口には大きなゲートがあり、警備員が数人つめて安全を見守っていました。そのゲートを入り、数分歩きますとやがて樹木に覆われた白い壁が見えてきます。ここがサン・クリストバルのメインエントランスです。
木の扉から中に入ると、大きな広場となっていて、左側に白い建物(これが施主の住宅棟)があり、高木の枝葉の向こう側に赤褐色の壁が見えます。
そこは全くの静寂の空間ですが、遠くに滝の音が聞こえ、期待させる何かが潜んでいることが感覚的に解ります。
広いプロムナードを左の住居の壁に沿って歩いて行くと、前方に赤褐色の壁、ピンクの壁、水盤と音をたてて落ちる滝、植樹帯が見えてきます。
更に進むと右側の視界が開け、牧草地が広がりますが、あくまでも目は滝とその向こうにある何かに注がれ、気持ちが高ぶってきます。
この白い壁まで玄関の扉から30mほどあります。
白い壁は結界を現し、床の仕上げもここまではタイル、白い壁から向こう側は土に変わっています。視線は水盤の向こう側にあるピンクの壁を背景にした植樹帯に注がれ、滝の落ちる音が気持ちよく響き渡ります。
白い結界の壁を越えると四角い水盤を囲むようにピンクの壁がその全貌を現し、一気に視界が開かれ感動せざるを得ない美しい風景が目の前に迫ってきます。
壁の絶妙な配置と高さ。完璧なプロポーション。色使いの見事さ。しばらくその場に立ち尽くしてしまいたくなる空間です。
バラガンは、細かい図面は作らず、妥協を許さぬ現場主義で、この結界となる重要な白い壁も何度も作り替えたそうです。
建築における壁の重要性、色の重要性そして、物語性を改めて感じることができました。