旧足立正別邸 トマテックスの家
葉山町にある旧足立正別邸です。
設計は佐藤功一。1933年の竣工
この家の特徴は、トマテックスという素材を大々的に用いたことです。
トマテックスとは、施主足立正が所有していた王子製紙によって開発された植物繊維版。
特徴として、吸音性に優れるとともに、熱の絶縁性すなわち、断熱性もあり、湿気にも強く、施工が簡単で、仕上げも塗装を施すだけで済む
という優れた材でした。
左官による塗り壁(湿式工法)ではなく、成形版をそのまま貼ることで、左官による手間を省き、工事工程を少なくし、
工期の短縮も図れました。この当時、この乾式工法による住宅のデザインが実践されていたそうです。
佐藤功一は、このトマテックスという施主の自社製品で、建物を構成しました。
外観
正面の少し出ている部分は、1階が食堂、2階が内部ベランダ付き座敷です。
左の手前にはね出している部分はベランダと呼ぶ部屋で、3方向に大きな開口部が設けられて、サンルーム的な使い方がなされたようです。
ベランダの開口部
外壁はすべてそのトマテックスという板を貼り、杉の付け柱で抑えて、塗装したもの。
外部に構造材をそのまま表現するハーフティンバーの様式ですが、外に表れているのは附け柱です。
ハーフtティンバーは設計者が好んだ様式でもあり、この足立邸では「英国カッテージ風」とされます。
開口部は、ガラスを小割にするため、桟が入ります。
屋根は瓦葺き。
細かなフレームワークが美しい。
こちらがエントランス。
玄関左の4つの窓にはステンドグラスが入ります。
ステンドグラスが入る部屋は、応接間
玄関を入ると大きな階段ホールになっていて、上階はプライベート個室
1階は、居間・食堂・応接室・台所・水廻りの構成で、内部の壁面にもトマテックスが用いられています。
1階平面図
中廊下を隔てて、南側が応接・居間・ベランダが並び、北側に食堂・水廻りが配置されたプラン
2つの階段が上階の各部屋と上手くつながりを持たせたプラン。
また、食堂と応接、居間やベランダは引き戸をもちることで、連続した部屋として使えるように工夫されており、
中廊下通らずに、南の廊下を使うことで、食堂とベランダが行き来できる工夫もされています。ベランダがこの建物のひとつの売りであり、
外部に開放された気持ち良い空間としてデザインされたことが解ります。
2階平面図
玄関脇の階段室から階段を登り、ここも中廊下を境にして部屋が配置されます。それぞれの部屋は、2面が外部に面し、採光・痛風に考慮されています。
座敷Aの外側に縁側のようなバルコニーが出ており、これは外観上の特徴にもなっています。
ここからは富士山を眺めたそうです。
裏側の開口部も手を抜かないデザインがなされています。