さようなら歌舞伎座(3)

劇場内部に入ります。 設計した吉田五十八は、歌舞伎座の設計修築にあたり、「劇場ならば、その豪華さによって、芝居が一段と美しく見えるように設計するのが本来であって、逆に芝居が劇場に喰われてしまう小屋は邪道であろう。そういった意味合いから出発して、今度の歌舞伎座は、内部意匠は出来うる限りその手法の種類を最小限度に止め、同じ手法を多少変化させては各所に使い、意匠の混乱によって生じる舞台効果の減殺を防ぐように苦心した」と述べています。 又「それと同時に、日本的ディテールをなるべく目に立たないよう、邪魔にならないよう単純化して、劇場全体から来る雰囲気によって日本的な香りを高め、歌舞伎らしい柔らかい空気の内に芝居を進めていく、といった考えのもとに練ったつもりである。要するに細部よりも雰囲気をねらいとして設計を進めたわけである。」 また吉田五十八は芝居小屋にはうるさく、「料理屋は芸者がきれいに見えなきゃいけない。芝居もそうです。女の人は芝居を見に来るのが50%、あとは自分を見せに行く。ひなだんとか土間、うずらは自分を見せに行くのです。やっぱり芝居はプラス観客なんです。廊下をお客が右往左往してきれいに見える。こっちはこのことを勘定にいれて設計しているんですよ」 晶文社建築家吉田五十八より 劇場と舞台が一つにまとまり、演じる人も見て楽しむ人もひとつになれるような空間です。観客からの掛け声も適度に響き、皆がわいわい楽しめる雰囲気があります。天井の照明が組み込まれた竿縁が全体を覆い、舞台まで視線がつながります。 席や桟敷で、食事を取られている人も多く、庶民的な部分も多く残した劇場だと感じました。 これは、やっぱり歌舞伎の劇場であり、この雰囲気を次の新しい歌舞伎座にも是非伝承してもらいたいと思います。