村野藤吾 近三ビル(旧森五商店東京支店)(1) 人に優しい外観

東京日本橋室町に今も現存する戦前のビル 近三ビル 1931年竣工。建築家村野藤吾が渡辺節建築設計事務所を退所後、事務所を開設した独立後最初の作品がこの近三ビルヂング(旧森五商店東京支店)です。 近三ビル 退所後にアメリカ・ヨーロッパを外遊視察。北欧の建築に感銘を受けたそうです。特にストックホルムのグンナール・エストベリ設計のストックホルム市庁舎を見てこれだ!と直感。 その影響も出ている、外観です。 ストックホルム市庁舎 渋い赤褐色のタイルにプロポーション良く配置された窓。 近三ビル この開口部は、当初は、鉄にジュラルミンを包んだ画期的なサッシでした。今は改修されています。 壁を建物トップで受ける庇もこの建物の品格を高めています。 近三ビル そして、一階のエントランス廻りのデザインも素晴らしい。 建物の両側に対称にくぼみを設け、向かって左は、各階に繋がるエントランスホール。右は、1階店舗用のエントランスになっています。 近三ビル 小さな庇状のものが開口部上部に品良く付き、壁の材料もこの両側のみ変えてあります。 近三ビル   玄関庇部分   近三ビル正面1階の道路に面する窓は、上部のポツ窓と縦の軸線がずれています。 近三ビル これによって、厳格な規則性がぼかされると共に、サッシの抱きの薄さによって、近代建築の軽快感を持たせています。 建物のコーナーは、角がとってあって、曲面になっています。 玄関の両側の壁もそうですが、建物の角もこのようにアール。 何となく優しい雰囲気はこのようなディテールから生み出されているのです。 近三ビル 曲面を構成する壁のタイルも良く見ますと、曲面。 わざわざ、特注で焼いて製作しているんですね。 近三ビル 1931年ですからもう93年も前の建築。 信じられないデザインセンス。 戦争でも残った、貴重な近代遺産です。 近三ビル