アントニン・レーモンド 軽井沢の夏の家 スロープと逆三角形の屋根が織りなす流れのある空間
軽井沢のタリアセンにあるペンネ美術館。この水平に長い建物は、建築家アントニン・レーモンドの設計でレーモンド事務所が夏の事務所として使っていた夏の家を、ここに移築したものです。
アントニン・レーモンドはフランクロイドライトのところで建築を学び、帝国ホテルの建設監理・実施設計に伴い、アメリカからライトと共に日本に来日。
帝国ホテル完成後も日本に残り、後世の日本人建築家に大きな影響を与える建築を沢山残しました。
そのレーモンド設計事務所が夏の避暑地として軽井沢に建てた、夏用の事務所がこの夏の家。
その平面計画や断面は、ル・コルビジェの設計計画案であるエラズリム邸計画に基ずくとされています。
コルビジェは、どこでも建てられる近代建築の白い箱から、その建物が建つ場所の材料を用い、景観を取り入れた新しい道を切り開いていました。
丁度その時、遠く日本の地でレーモンドがコルビジェのプランで、日本の木材を用い、風景を大きな開口で切り取ったこの建築を造ったことで、コルビジェとレーモンドの間ではいろいろな意見の錯綜がありましたが、結局のところ、コルビジェはこの建築の素晴らしさを認めています。
向かって左はリビング・ダイニングで、右は宿泊室
建設時は、コンクリートの基壇の上に木造本体が載っていました。写真は事務所として使われていた夏の家。
外部は板貼り。これまでの日本の建築にはない、屋根の形状。日本におけるモダニズムの先駆的屋根。
玄関部分です。
リビング・ダイニングの突き当り部分
大きな開口部が庭に面して設けられ、自然を取り込んでいます。
屋根の谷の部分に樋。
コルビジェ計画案ではコンクリートでしたが、レーモンドは木造。雨漏り対策には気を使ったでしょうね。
今は美術館なので、窓は残念ながら閉められていますが、事務所として使われていた時は、もちろん全部解放状態
こちらは、平面図
建物の中心あたりが玄関。そして玄関部分を中心にして図面の左側がリビング・ダイニング・暖炉スペース。
右側が水廻りと宿泊スペースに明快にゾーンが分けられています。
そして中央の玄関の向こう側にはプールが設けられ、自然と一つになって遊ぶことができます。
そして内部の最大の特徴である、2階の製図室へと上るスロープがリビング脇に設けられました。
スロープの緩やかな傾斜と、屋根が折れて先へと上っていく天井が、見事なハーモニーを生み出し、空間に奥行感と上昇感をもたらしています。
2階の製図室とリビングは緩やかにつながります。スロープという時間を感じられる装置は、確かに空間的には場所を要し、階段と比べて一見無駄が多いように思えますが、この無駄がひとにゆとりを感じさせるのですね。
スロープは半分登って折り返すので、景色の見え方も変わり、ドラマチックです。
暖炉の横の、スロープ折り返し点の先に設けられたベンチのあるスペースは、外を眺めながらボケーとする場所。
大きな吹き抜け空間に、壁で囲まれた安心できる場所を設けてあります。
コルビジェの案を見事に咀嚼して木造で造った建築。見ていない人は必見の建築です。