広瀬鎌二 上小沢邸を見る(2) コンパクトで機能的、かつ開放性にある時代を超えたモダニズムの建築
さて、内部へと進みます。
これが上小沢邸のプラン。共稼夫婦2人の家で主人はドイツ文学者、夫人がピアノの先生。できる限り手のかからない単純な生活様式が施主の依頼だったそうです。
玄関入って土間がまっすぐ伸びます。
まずは手前に夫人が教えるパブリックなピアノ室があり、その奥がプライベートなワンルームのリビング・キッチン・寝室、水廻り。
それらは土間より一段高くなっています。
部屋の南と北には巾2700mmのガラス開口。両側がガラス開口なので、解放感は抜群。
キッチンと寝室には引き込み戸が設けられていて、扉を閉めると、落ち着いた寝室になります。
コンパクトでありながらも解放感と自由度に溢れた平面です。
まずは、玄関。
このスチール枠のガラス玄関扉も細くでなかなかのディテール。取っ手も面白いですね。
土間から玄関がわへの見返り
こちらは、ピアノ室。
床は汚れても掃除しやすい天然スレート。壁もコンクリートブロックに打ちはなしのコンクリート。開口部には洗濯手間や色褪せを嫌い、カーテンを付けなかったそうです。
上の平面図でもわかりますが、当初はこの大開口のサッシは両引き戸。丁度コンクリートブロックの壁の長さ1350mmに合わせてあり、そこにピタッと引き込まれます。
今のサッシは1978年の改修時にスチール枠の複層ガラス1枚戸に変えられたものです。重量のあるガラスサッシを支える戸車は当時刑務所の扉で使われていたものだそうです。
その戸車は床レベルの下。サッシの下枠が室内から見えない納まりで、床が外部へと続くイメージ。ストッパーもシンプル。
これは、勝手口からキッチンを見たところ。勝手口と言っても普段はこちらから外部へと出る出入り口。
天井には丸い穴が開きます。採光の為の開口部であり少し大きな丸には照明器具が組み込まれ、換気扇も同じ円形の穴の中に納めるという徹底ぶり。
こちらは断面図ですが、広瀬鎌二氏の徹底したコンセプトが読んで取れます。
ベッドスペースからキッチンを見たところ。右奥のドアは、ピアノ室へのドア。コンパクトに納まっています。
これからの時代は、夫婦共稼ぎが当たり前の時代。また老人社会にもなって、夫婦2人の家が求められていくと思います。
その時求められるのは、コンパクトでありながらも、開放的であり、機能的な家。
広瀬鎌二氏が60年前に設計したこの上小沢邸は、先の時代にも十分に使える本物の建築であると思いました。
こういう建築は、次の世代を担う若い人たちにも体感してほしい、貴重な建物だと思います。残してほしいモダン建築。