白井晟一 杉浦邸 玄関アプローチは静なる空間
建築家白井晟一が設計した建物は、独特の存在感と静けさを携えた建築が多く、一度その空間を体感しますと、他の建築とは全く異次元の空気が感じられます。しかしながら、その自邸や、銀座親和銀行などの名作がこの世から姿を消し、建築界にとって貴重な白井作品が少なくなってしましました。今回の杉浦邸もそのひとつ。私は犬の散歩をしていますが、近所の面白い建物の前を通るコースをいつも探していて、この杉浦邸の前をゆっくり歩くのが好きでした。つい最近までこの住宅が白井晟一設計とは知らなかったのですが、他の建物とは違う風格を感じ、散歩の中では最も好きな建物でした。雑誌にも公開されていない杉浦邸が解体されるのを機に見学会が催され、参加しました。
まずは、この建物の大きな特徴でもある屋根そして大きくはね出した軒が目に付きます。屋根は1200mmぐらいは壁から跳ね出していまして、棟には瓦が載り、屋根自体は金属屋根となっています。
玄関は、駐車場の屋根と本棟の屋根が重なる部分に塀をくり抜いたように設けられました。
左が駐車場の壁。瓦の載った塀に沿ってこのアプローチを進みます。
道路からの境の床は厚い御影石。その御影石の階段が2段。さらに石の床は奥へと人を誘導します。
屋根は、入り口部分から斜めにアプローチ上部に架けられています。
リズミカルな和を感じる石の床。
両側の壁に挟まれ正面の一文字が書かれた札を見ながら進みます。
重なり合う屋根が美しい。繊細で細い線でもなく、民家的な太い線でもない力を感じる屋根のライン
駐車場の壁が無くなり視界は左へ。窓に入った横格子は、右の壁まで伸びていきます。
右手足もとには灯篭
一旦視界が抜けます
大きくはね出した軒を支える柱の脇から玄関へ
この玄関扉。いかにも白井晟一の設計した印象に残る玄関扉です。
ドアノブは、扉の真ん中に丸いノブが象徴的にひとつ付きます。
扉の枠は、天井まで伸びて、扉の上部は扉と同じ素材、同じ面の板がはめこまれます。扉を支える両側の枠の太さが良いです。
玄関から今来たアプローチを振り返りますとこんな感じ。
正面の壁は駐車場の棟
ここまでのアプローチは、いかにも日本建築の持つアプローチ
壁によるアイストップと視界の抜け。こころが落ち着く静かな空間。わずかな面積の空間ですが、人の気持ちが切り替わるとても大切なアプローチになっています。
さて、こちらは道路に沿って設けられたもう一つの入口である勝手口です。
左が建物に入る扉。ここに郵便受けがあります。郵便などは、こちらから受け取ることになります。そして右の扉は、塀に囲まれた中庭に抜ける扉
勝手口を入って、見返した写真です。
陰影を感じられる場の創造です。